よりよい飼育環境を整えていくために

ペットの頭数の激減期ならびに人口減少、少子化・高齢化時代を迎え、小動物獣医会には新たな動きが、今求められている。

一般社団法人ペットフード協会 名誉会長 越村義雄

要約

2007年 犬の1歳未満の構成比は7%であった。しかし、2013年は3.5%、2014年は3.4%と半分に減少している。現在の成犬、高齢犬が亡くなると、2014年の犬の頭数、10,346千頭が、将来は約半分の5,200千頭になる渓さんである。

近年、犬の頭数は約5%前後で減少している。犬の頭数が緩やかな3.6%の割合で、今後減少すると予測しても、2024年には3,100千頭が減少、犬に関連する市場(獣医療、ペットフード、用品、生体、サービス等々)は、少なくとも約2,400億円が失われることになる。

そうなると、クリニック、ペット専門店、メーカー、卸店等、倒産を余儀なくされることになりかねねい。ただし、現在の犬、猫の飼育率はそれぞれ15.1%,10.1%だが、今後飼育したいという飼育意向率は犬、猫共1.6倍になっている。

さらに欧米と比較すれば、犬の飼育率は現在の2倍、猫の飼育率は3倍にすることも可能である。すなわち、現在飼育意向率の1.6倍にすぐにならない「負」の解消を行えば、小動物獣医界、ペット関連産業の明るい未来も見えてくる。

人口減少、少子化、高齢化の流れは変えられないが、業界が今後ペットと暮らすことによる人間のQOL(生活の質)を高めることに真剣に取り組み、業界のビジョンを共有し、日本の行政府、市町村、教育機関、国民に効果的な発信をすることにより、明るい未来も創造できる。

ペット業界は、医療費の削減効果があり、人間の心と体の健康に寄与する「健康産業」といえる。リードプログラム(子供がおとなしい犬に対して、本を読み聞かせることで、子供たちの本を読む力が向上する)のような動物介在教育という面で、「教育産業」でもある。

一方、ペットと共に暮らす子供たちが増えれば、他人にも優しくできる社会を創造することにつながる。その意味で「ペット産業」は世界に平和をもたらす「平和産業」でもあり、究極的には「幸せ創造産業」と言っても過言ではない。

ー要約ここまで

2009年の5月にペットフード協会の会長を拝命したが、よりよい飼育環境を整えていくために、また、ペット関連業界の発展、および人とペットが共生する幸せな社会の実現のため、様々な取り組みを行ってきた。それらの紹介をする前に、まずは日本を取り巻く外部環境から見てみることにしたい。

外部環境

日本の小動物獣医界の今後を考えた時、必ずしも楽観視できない状況になりつつある。日本を取り巻くマクロ的な変化を検証したい。世界の人口は71億人に到達したが、不安定な政治や経済、また、戦争や紛争、予期せぬ災害や貧困、伝染病、人種差別、非識字率の高さ等々で苦しんでいる人々が世界には多く存在する。他国の政治・経済、金融の動きにより、日本も直接影響を受けるグローバル化が進んでいるのも事実である。

日本の人口は7年連続減少しており、人口減少が続く国で経済が栄えるのは、基本的にはあり得ない。国立社会保障・人口問題研究所の「日本の将来人口推計」によると、2050年には日本の総人口は、1億人を切り、約9700万人、2100年には、現在の人口の半分、約4900万人になると予想されている。

また、現在高齢者の割合は26.0%になったが、同研究所では、高齢者の人口は、2050年には38.8%、2100年には41.1%と予測されている。人口の視点から言えば、高齢者を対象とするビジネスは今後日本では有望であり、日本の小動物獣医界も、高齢者を対象としに人とペットとの共生を推進することが、今後の発展には不可欠と言える。米国にある高齢者とペットが一緒に住める特養ホーム、そしてどちらかが先に逝っても最後まで面倒をみてくれるタイガープレイスのような施設の建設を推進することが、業界には望まれる。

経済面では、GDPの伸び率は消費税の増税前の2014年第一四半期は5.1%と成長したが、第二四半期はマイナス6.9%となり、第三四半期もマイナス2.1%だった。第四四半期になり、ようやく1.1%とプラス成長になった。また、日本のGDPの約6割を占める個人消費は、増税前の3月は前年比7.2%と伸びたが、4月はマイナス4.6%と落ち込み、以来毎月マイナスが2015年になっても続いている。2015年3月は前年比マイナス10.6%だった。依然として消費は低迷している。